愛知県漂流だったころ1〜八画文化会館vol.6 特集:レトロピア岐阜 勝手に新刊発売記念企画〜

また、愛知県に戻ってきてしまった。
あのころ私を支配していたものは何だったのか、何に突き動かされて街を奔走していたのだろうか。

今、こうして、この街に再び戻り、もう一度、暮らしをはじめようとしている。
違和感はいずれなくなるだろう。これまで、どこで暮らしていてもそうだった。

やがて、慣れる。それまでのガマンだ。
歯医者で銀歯を詰めるだろ、あの感じだ。
マスクをした歯科衛生士のお姉さんに「違和感ないですか?」と問われ、すごく違和感があるのに、何も言えずにいる。
しかし、そのままにしていれば、やがて慣れる。
意識しなければ、黒く錆びた銀製の借り物の歯であることなど忘れて、自分の一部になっているだろう。

サザエさんのカツオの声にも慣れた。
以前は違う声だったことは確かで、それに違和感を感じたことも覚えている。
だけど、今はもう以前がどんな声だったのかも忘れてしまった。
ぼくには関係のないこと。なんの影響もないことだろう。

何かが違う。その何かはもう思い出されることもなく、いやがおうでも、日々は流れていく。
いままで、そうして生きてきた。

だけど、だけど、なんだ。
ぬぐいきれない違和感。これに、もう一度向かいあってみようと思う。
もしかしたら、変わったのは、街でも時代でもなく、私自身なのかもしれない。

新規連載:愛知県漂流だったころ
八画文化会館vol.6 特集:レトロピア岐阜
勝手に新刊発売記念企画としてスタートします。

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